Roeschlein-Kreuznach TELENAR 1:5,6/13,5cm
マウント:Paxette M39
焦点距離:135mm
開放F値:5.6
絞り羽根:12枚
レンズ構成:?群?枚
最短撮影距離:3m
フィルター径:34mm (外径;かぶせ式)
質量:???g

Roeschlein KreuznachはStefan Roeschlein氏によってドイツのBad Kreuznachに1948年頃に創立された光学機器メーカーです。1964年にこの会社は現在のSill Opticsに売却されていますので,実質的な活動期間は15年あまりだったと推察されます。創立者のStefan Roeschlein氏はMeyer-Optik Görlitzにおいて光学技術者としてPrimoplanやTrioplanなどの現在でもたいへん有名なレンズを設計した人物です。その後,48歳になったばかりの1936年にはトロニエ博士の後任としてBad KreuznachのSchneider Optische Werkeに技師長のような立場(?)で入社しています。Xenonなど種々のダブルガウス型の銘玉を発明した,あの有名なトロニエ博士の後任ということはとても優秀な技術者として当時の光学屋さんのなかで名前が知られていたのだと思われます。
技術力のある人によくあることなのかもしれませんが,勤め人をやるよりは自分で会社を立ち上げたい,と考えたのかもしれません。1948年,60歳になって一念発起して自らのレンズメーカーを立ち上げたのでしょうか。60歳で会社を立ち上げ,自ら光学設計をしてレンズを製造する,というのは普通に考えて相当なエネルギーが必要なはずです。それをやってのけたというのはとてもエネルギッシュな人物だったのかもしれません。
とは言っても,Roeschlein Kreuznachが供給したレンズはそれほど多くは知られていません。ひょっとすると,日常の糧は古巣のSchneiderに廉価版レンズをOEM供給して稼ぎ,その稼ぎで自分が作りたいレンズを作っていたのかもしれません(どこにもそんな情報は書かれていないのでこれは私の単なる妄想です)。
いろいろと妄想が広がります。
このレンズはRoeschlein KreuznachがPaxetteの第二世代のカメラ(39mm径のねじ込み式マウントをもつレンズ交換式カメラ)のために供給したものの一つです。Roeschlein Kreuznachが作ったレンズの種類はそれほど多くはなく,いずれも比較的廉価なカメラ向けの小型のものが中心であったように見えます。135mmのTelenarも開放F値が5,6という当時としても暗いレンズですが,そのかわりに手のひらに収まるほどで非常にコンパクトです。レンズ構成や発売時期などの情報は私がネットを漁った範囲では何も見つけることができませんでした。この個体はレンズ銘に-E-がつかない距離計に連動しないタイプです。また,銘板に刻印された焦点距離もmmではなくcm表記ですので初期に製造されたものだということは予想できます。レンズ交換式の最初のPaxette IIの発売が1952年なので,この個体も遅くても1950年代の前半には市場に供給されていたはずです。
Roeschlein KreuznachのPaxette用レンズはいずれも小型化を優先して,ある程度(というか,かなり)収差を残したまま製品化したようなところがあって撮り方によってはボケが大暴れするような印象です。しかし,収差の暴れ方の再現性がよくわからず,たまに普通に写ったりして安定性というか一貫性がなく,コントロールが難しそうです。なんだか開発途中で投げ出しちゃったんじゃないかと思うくらいですが,見慣れてしまえば普通に見えてきます。現代のレンズとは対極にあるレンズと言えるかもしれません。
Paxetteのねじ込み式マウントは39mm径,ピッチ1mmなのでライカのスクリューマウント(L39, LTM)と同じです。しかし,フランジバックが44mmなのでPaxette用レンズをバルナックライカに装着しても無限遠がでません。そこでよく行われているように,レンズ側から以下のようにマウントを変換してM型ライカに取り付けました。
M39 --> M42変換リング
ヘリコイド付きのM42 --> M39変換アダプタ (鏡筒長さ12-19mm)
L-M変換リング
いずれのパーツもeBayに転がっている安い中国製のものですので精度は当てになりません。ヘリコイドの鏡筒長さがおよそ15mmほどのところで無限遠がでます。そのためM型ライカにこれらを取り付けた場合,ヘリコイドに4mmほどの余裕が残るため,ヘリコイドをいっぱいまで伸ばすと少しだけレンズの最短撮影距離を縮めることができます。レンズ単体では3mが最短ですが,おおまかな実測では2.4mくらいまで寄れました。ミラーレス一眼カメラで使うならばLeica Mマウントレンズをミラーレス一眼カメラのマウント(例えばSony Eマウント)に変換するヘリコイドつきアダプターを使えば3段ヘリコイドでさらなる近接撮影が可能になります。
Leica Mに装着して実際に使ってみるとレンズのヘリコイドとアダプタのヘリコイドのどちらを回しているのかわからなくなってピントあわせに無駄に手間がかかることがあります。2つのヘリコイド が物理的に近接してしまうことが問題かもしれません。そうかといって精度の悪いものを3つも組み合わせているのでどこかに調整しろがないと無限遠がでないということにもなってしまいます。安直にPaxetteのM39レンズを使うには,多少の不便には目をつぶってこのような方法を取るしかなさそうです。
この個体は某マエストロがPaxette用レンズがあまりにも売れないために捨て身のジャンク扱いで放出したものを回収したものです。まとめて複数のカメラとレンズをセットで放出されていましたが,私個人としては最初からRoeschlein-Kreuznachのレンズ狙いでした。135mmで開放F値が5.6というのはどう考えても売れそうにもないスペックなので,申し訳ないような価格で落札し,手元に届いたものです。絞り環のねじ込み位置がおかしいようで絞りの指標と目盛があっておらず設定している絞り値がよくわからない,という問題はありますが,とりあえず写真を撮るには問題はありません。前述の通り,設計途中で投げ出したのではないか,と疑いたくなるくらい収差が残っており,いくらピントを合わせてもあってるのかどうかわからないくらいに滲みます(光路の調整が正しくない可能性も濃厚ですが)。しかしRoeschleinのレンズはみんな暴れ玉のようですから,これが普通なのかもしれません。



このレンズによる作例を
こちらにおいています。よろしかったらご覧ください。