SUPER ROKKOR 5cm F1.8 (Lens #050)

Chiyoda Kogaku SUPER ROKKOR 1:1.8 f=5cm

マウント:L39
焦点距離:50mm
開放F値:1.8
絞り羽根:10枚
レンズ構成:5群6枚
最短撮影距離:1.0m
フィルター径:46mm
質量:254g (実測値)

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千代田光学精工(のちのミノルタ)は1947年にバルナックライカコピーの35mm判レンジファインダーカメラMinolta-35Aを市場に投入します。フィルムは35mm判でしたが,撮影範囲は24x32mmのニホン判が採用され,そのときの標準レンズは梅鉢として知られるChiyoko SUPER ROKKOR C 45mm F2.8でした。その後,いくつかのモデルを経て1958年にMinolta IIbで24x36mmのライカ判が採用されますが,このモデルがミノルタの最後のレンジファインダー機となります。

こちらの解説によれば,SUPER ROKKOR 1:1.8 f=5cmはMinolta IIbの前年の1957年に市場投入されたと考えられるとのことです。これは,ミノルタ独自の複層膜コーティングであるアクロマチックコーティング(AC)が実用化されたタイミングが1958年で,かつ,SUPER ROKKOR 1:1.8 f=5cmにはACによるコーティングが施されていないことから推察されています。

いずれにしても,SUPER ROKKOR 1:1.8 f=5cmは千代田光学がリリースした(ほぼ)最後のL39マウントレンズであったことは容易に想像できます。このモデルの前,おそらく1954年ころには梅鉢の上位の高速レンズとして5cm F2の標準レンズがリリースされています。しかし,このF2のレンズはかなりの暴れ玉のようです。一方のF1.8はよく写るレンズという定評に加えて,販売期間が短かったこともあって,千代田光学がライカコピーの最後を飾るレンズとしてそれなりの立ち位置にあるようです。

私は普通の人なので暴れ玉ではなく普通に写るであろう5cm F1.8を探していたのですが,それなりによいお値段のためなかなか手がつけられず,結局,価格の誘惑に負けて絞り羽に少し油染みのあるあまり状態の良くないものを入手しました。このレンズはダブルガウス型の第2群の張り合わせレンズを二つにわけた5群6枚構成であり,Carl Zeisのウルトロンと似たような構成です。

撮ってみると確かに解像感が高く,絞ればかなりかっちりとした像を結び,よく写るという印象です。ただ,ハイライトの諧調が簡単に飛んでしまうようなところがあるように感じます。そのため,陽の光を受ける金属面などがのっぺりしてしまい金属の質感が感じられなくなる場合がありました。その一方で,ハイライト以外では階調が豊かで陰影のある木の表面などの質感表現はたいへん優れていると感じます。被写体を選ぶようなところが無きにしも非ずなのですが,よく写るか,と問われれば定評どおりよく写るレンズだと思います。

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このレンズによる作例をこちらにおいています。よろしかったらご覧ください。

Rayqual KAR-LM (Mount Adapter #012)

Rayqual KAR-LM

レンズ側:Konica ARマウント
ボディ側:Leica Mマウント
製造(販売)者:Rayqual

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国産マウントアダプタの雄,宮本製作所(Rayqual)のアダプタです。Konica ARマウントレンズをLeica Mマウントカメラに装着することができます。以前にも書きましたが,小西六の初期の一眼レフ用レンズはKonica Fマウントだったものの,すぐにARマウントに変わったためFマウントレンズをARマウントカメラに装着するための純正のマウントアダプタがありました。この純正のマウントアダプタを使ってFマウントレンズを現代のデジタル一眼カメラに装着して写真を撮るためにはARマウントレンズ用のマウントアダプタがあればよいはずなのですが,市場に流通している多くのARレンズ用マウントアダプタは小西六純正のFマウントレンズ用アダプタを装着することができません

小西六のF to ARマウントアダプタを装着できるARレンズ用マウントアダプタとしては,私が知る限りFOTGAのものしかありません。ところがFOTGAのARマウントレンズ用アダプタはSony Eマウントカメラ用はありますが,Leica Mマウントカメラ用は販売されていません。Sonyのα7シリーズで使えれば十分だろう,という声も聞こえてきそうですが,ライカMマウントに変換すれば他のカメラにもいろいろ使い回しができます。

というわけで,長い前置きでしたが,Konica FマウントレンズをLeica Mマウントカメラに装着できるマウントアダプタを探しまわった,という話です。その結果,Rayqual製のKAR-LMのみがKonica Fマウントレンズ用純正アダプタを装着できそうだということがわかりました。マウントアダプタのレンズ側マウント面のフランジ部分の幅が狭くなくては純正アダプタが使えないので,メーカーに事情を説明してフランジの幅について質問をしたところ,丁寧に答えていただき,フランジ幅が約1.5mmであるということも教えていただきました。FOTGAのものと同じくらいの幅でしたのでこれは大丈夫だろうと見込んで速攻で注文しました。

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届いたらすぐに純正F to ARマウントアダプタの装着を試してみました。

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小西六のをRayqual KAR-LMに装着したところです。
結果,予想通り,うまく装着できました。

これに気をよくして,小西六のマウントアダプタにKonica FマウントのHexanon 52mm F1.4を装着してみました。
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もちろん,問題なく装着できます。

せっかくなのでこのレンズとアダプタをLeica M Monochrome (Typ 246)に装着して無限遠を確認しました。といっても,レンズの絞りを開放にして遠いところにカメラを向けてEVFで10倍に拡大表示をしてピントが合ってるかどうかをみてみる,という大雑把な話です。
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マウントアダプタを2段重ねにしているわりにはなんとなくまとまりのある見た目になっています。凸凹していて格好が悪いと言えばその通りなのですが,逆にマウントアダプタ部分がのっぺりしていないのでなんだか機械的な凝縮感があると言えなくもありません。もちろん,そのあたりは個人の好みの問題なのですが。Konica FマウントのHexanon 52mm F1.4はごくわずかにアンダーインフでしたが,これはレンズが過去に整備された時にきちんと無限遠がでていなかった可能性があるため誤差の範囲内ですし,無限遠を開放で撮るということは普通はないので特に問題はありません。また,Konica Fマウントの135mm F3.5も装着してみましたが,ごくわずかにオーバーインフでしたのでこれはまったく問題がありません。

手持ちのKonica Fマウントレンズはまだ他に何本かあるのですが,2本で問題がなければ他のレンズでもよほどのことがなければ大丈夫だろうと楽観しています。というわけで,RayqualのKAR-LMマウントアダプタのおかげでLeica Mマウントカメラはもとより,Sony Eマウントカメラ以外のカメラにもLeica Mマウントアダプタを介して(マウントアダプタ3段重ねになりますが)装着できるようになりました。めでたしめでたし,です。

TELENAR 13.5cm F5.6 (Lens #049)

Roeschlein-Kreuznach TELENAR 1:5,6/13,5cm

マウント:Paxette M39
焦点距離:135mm
開放F値:5.6
絞り羽根:12枚
レンズ構成:?群?枚
最短撮影距離:3m
フィルター径:34mm (外径;かぶせ式)
質量:???g

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Roeschlein KreuznachはStefan Roeschlein氏によってドイツのBad Kreuznachに1948年頃に創立された光学機器メーカーです。1964年にこの会社は現在のSill Opticsに売却されていますので,実質的な活動期間は15年あまりだったと推察されます。創立者のStefan Roeschlein氏はMeyer-Optik Görlitzにおいて光学技術者としてPrimoplanやTrioplanなどの現在でもたいへん有名なレンズを設計した人物です。その後,48歳になったばかりの1936年にはトロニエ博士の後任としてBad KreuznachのSchneider Optische Werkeに技師長のような立場(?)で入社しています。Xenonなど種々のダブルガウス型の銘玉を発明した,あの有名なトロニエ博士の後任ということはとても優秀な技術者として当時の光学屋さんのなかで名前が知られていたのだと思われます。

技術力のある人によくあることなのかもしれませんが,勤め人をやるよりは自分で会社を立ち上げたい,と考えたのかもしれません。1948年,60歳になって一念発起して自らのレンズメーカーを立ち上げたのでしょうか。60歳で会社を立ち上げ,自ら光学設計をしてレンズを製造する,というのは普通に考えて相当なエネルギーが必要なはずです。それをやってのけたというのはとてもエネルギッシュな人物だったのかもしれません。

とは言っても,Roeschlein Kreuznachが供給したレンズはそれほど多くは知られていません。ひょっとすると,日常の糧は古巣のSchneiderに廉価版レンズをOEM供給して稼ぎ,その稼ぎで自分が作りたいレンズを作っていたのかもしれません(どこにもそんな情報は書かれていないのでこれは私の単なる妄想です)。

いろいろと妄想が広がります。

このレンズはRoeschlein KreuznachがPaxetteの第二世代のカメラ(39mm径のねじ込み式マウントをもつレンズ交換式カメラ)のために供給したものの一つです。Roeschlein Kreuznachが作ったレンズの種類はそれほど多くはなく,いずれも比較的廉価なカメラ向けの小型のものが中心であったように見えます。135mmのTelenarも開放F値が5,6という当時としても暗いレンズですが,そのかわりに手のひらに収まるほどで非常にコンパクトです。レンズ構成や発売時期などの情報は私がネットを漁った範囲では何も見つけることができませんでした。この個体はレンズ銘に-E-がつかない距離計に連動しないタイプです。また,銘板に刻印された焦点距離もmmではなくcm表記ですので初期に製造されたものだということは予想できます。レンズ交換式の最初のPaxette IIの発売が1952年なので,この個体も遅くても1950年代の前半には市場に供給されていたはずです。

Roeschlein KreuznachのPaxette用レンズはいずれも小型化を優先して,ある程度(というか,かなり)収差を残したまま製品化したようなところがあって撮り方によってはボケが大暴れするような印象です。しかし,収差の暴れ方の再現性がよくわからず,たまに普通に写ったりして安定性というか一貫性がなく,コントロールが難しそうです。なんだか開発途中で投げ出しちゃったんじゃないかと思うくらいですが,見慣れてしまえば普通に見えてきます。現代のレンズとは対極にあるレンズと言えるかもしれません。

Paxetteのねじ込み式マウントは39mm径,ピッチ1mmなのでライカのスクリューマウント(L39, LTM)と同じです。しかし,フランジバックが44mmなのでPaxette用レンズをバルナックライカに装着しても無限遠がでません。そこでよく行われているように,レンズ側から以下のようにマウントを変換してM型ライカに取り付けました。
M39 --> M42変換リング
ヘリコイド付きのM42 --> M39変換アダプタ (鏡筒長さ12-19mm)
L-M変換リング
いずれのパーツもeBayに転がっている安い中国製のものですので精度は当てになりません。ヘリコイドの鏡筒長さがおよそ15mmほどのところで無限遠がでます。そのためM型ライカにこれらを取り付けた場合,ヘリコイドに4mmほどの余裕が残るため,ヘリコイドをいっぱいまで伸ばすと少しだけレンズの最短撮影距離を縮めることができます。レンズ単体では3mが最短ですが,おおまかな実測では2.4mくらいまで寄れました。ミラーレス一眼カメラで使うならばLeica Mマウントレンズをミラーレス一眼カメラのマウント(例えばSony Eマウント)に変換するヘリコイドつきアダプターを使えば3段ヘリコイドでさらなる近接撮影が可能になります。

Leica Mに装着して実際に使ってみるとレンズのヘリコイドとアダプタのヘリコイドのどちらを回しているのかわからなくなってピントあわせに無駄に手間がかかることがあります。2つのヘリコイド が物理的に近接してしまうことが問題かもしれません。そうかといって精度の悪いものを3つも組み合わせているのでどこかに調整しろがないと無限遠がでないということにもなってしまいます。安直にPaxetteのM39レンズを使うには,多少の不便には目をつぶってこのような方法を取るしかなさそうです。

この個体は某マエストロがPaxette用レンズがあまりにも売れないために捨て身のジャンク扱いで放出したものを回収したものです。まとめて複数のカメラとレンズをセットで放出されていましたが,私個人としては最初からRoeschlein-Kreuznachのレンズ狙いでした。135mmで開放F値が5.6というのはどう考えても売れそうにもないスペックなので,申し訳ないような価格で落札し,手元に届いたものです。絞り環のねじ込み位置がおかしいようで絞りの指標と目盛があっておらず設定している絞り値がよくわからない,という問題はありますが,とりあえず写真を撮るには問題はありません。前述の通り,設計途中で投げ出したのではないか,と疑いたくなるくらい収差が残っており,いくらピントを合わせてもあってるのかどうかわからないくらいに滲みます(光路の調整が正しくない可能性も濃厚ですが)。しかしRoeschleinのレンズはみんな暴れ玉のようですから,これが普通なのかもしれません。

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このレンズによる作例をこちらにおいています。よろしかったらご覧ください。