マウント:ALPA
焦点距離:50mm
開放F値:1.8
絞り羽根:9枚
レンズ構成:5群7枚
最短撮影距離:0.28m
フィルター径:専用Bタイプ(48mm)
質量:282.0g (実測値)

スイス製の一眼レフカメラAlpaはピニオン社という時計の歯車を作る精密部品メーカーが作っていたカメラです。ピニオン社はカメラだけを作ってレンズは全て他メーカーからの供給を受けていました。Alpaカメラにはある種のこだわりがあったようで,なぜかレンズの王様Carl Zeissのレンズは一本もラインナップされていませんでした。そのかわり,と言ってはナンですが,一癖も二癖もあるマニアックなレンズが並んでいます。詳細は,こちらに詳しいのでどのようなレンズがあったかはリンク先を参照してください。
Alpaカメラはとても高価だったため,当然,製造数も少なく(1944年から1989年の45年間に42,000台しか作られなかった),その結果,自動的にレンズの製造数も少ない,というレアモノの条件をカメラ,レンズともに十分過ぎるほど満足しています。カメラは複雑で壊れやすかったようで,とても私のような貧乏人が手を出すようなものではありません。しかし,レンズはとても魅力的です。Alpaカメラは一眼レフではフランジバックが最も短い部類に属していたため,Alpa用レンズはマウントアダプタ経由ではいかなる一眼レフカメラにもつけることができませんでした。とてもマニアな人がLeica Mにつけて使っていたようです。かつて,青山にあったレチナハウスというマニアックなカメラ店が製作したAlpaからLeica Mへのマウントアダプタが作られたことがあって,50mmレンズに限って距離計も連動したようです。この件についてはこちらに詳しい話が書かれています。
初期のAlpaカメラは一眼レフですが距離計にも連動するレンジファインダーも付いていて一部の標準レンズは距離計連動していたため,レンズも距離計に連動できるようになっていました。よって,理論上はLeicaの距離計にも連動可能なアダプタを作ることはできた,ということだと思います。
最近,Kiponやノーブランドで出回っているAlpa - Leica M用マウントアダプタはこのレチナハウスのアダプタを模倣して作られているようで,標準レンズは距離計に連動することになっています。しかし,その精度はまったく使い物にならないレベルであるばかりか,距離計連動用のカムのバネのバランスがとても悪く,レンズ側のヘリコイドを回そうとすると摩擦抵抗が大きすぎてピント合わせが困難,という実に本末転倒な代物です。距離計連動が使い物にならないばかりか,レンズに無用の負担をかけるうえにピント合わせもできない,というどうにも使えないものです。特定の個体の不具合かと思っていくつか購入しましたが,そもそもの設計がダメダメですし,おそらく,特定のメーカーのOEMと思われ,いずれも同じ設計で造作も同程度でした。
話がそれましたが,Alpa用レンズは兎に角,数が少ないうえ変わったメーカーのレンズがラインナップされているため,非常に限られたマニアの間ではたいへん評価が高いようです。ただ,それもミラーレス一眼カメラが一般的になって,フランジバックが極端に短いAlpa用レンズがようやく陽の目をみることになったからだと思います。ミラーレス一眼が出る前はAlpa用レンズはレアであるにもかかわらずそれほど高い価格で取引されていたわけではないようです。フィルム時代のAlpaの中古の扱いについては,とても含蓄の深い戯言のページ(失礼!)に詳しく書かれています。
Kern Aarauはシネレンズのメーカーでスチル用のレンズはAlpaに供給した標準レンズのみです。Macro Switarはアポクロマートで1/3倍まで寄れる明るいマクロレンズとして当時の時代の先端をいくレンズでした。大きく分けて3つのバージョンがあって,マクロじゃないSwitar F1.8 (自動絞りのつかない初期型,自動絞りがついた前期型) , 最短撮影距離が短くなったMacro Switar F1.8 (中期型-I), そして,なぜか開放F値が暗くなったMacro Switar F1.9 (後期型)です。これ以外に,F1.8のMacro SwitarにはF1.9と同じ5群8枚のモデル(中期型-II, マクロじゃないSwitarとその後のMacro Switarは5群7枚構成)があるようです。このあたりのレンズ構成に関する考察はこちらのページに詳しく載っています。
Alpaのカメラとレンズは高価だったために,たいていのレンズの製造数が極端に少なく2桁とか3桁数しか製造されていないレンズがザラにあります。そのなかにあってMacro Switarはカメラの標準レンズとして,というかAlpaカメラを買った人は1本はレンズが必要で,そのなかの多くの人が標準レンズとしてMacro Switar購入した,と想像されます。無茶苦茶高価なレンズであるにもかかわらずかなり多くの人が購入したようで,Alpaカメラを買うような人はあまりお金の細かいことは気にしないのかもしれません。そのため,Alpaマウントレンズとしてはかなり数がでており,中期型のMacro Switarは10,329本も(?)製造されたようです(アルパブックによる)。他にもSchneiderやOld Delft, P. Angénieuxなども標準レンズを供給していましたがそれほど多くの数が出た,というわけではないようです。しかし,それにもかかわらず,Macro Switarの現在の相場はとても高価です。
このレンズを入手したのはだいぶ前ですが(といってもせいぜい2年くらい前),そのときでも十分に高価でした。しかし,最近は私が入手した金額の2倍近い値段が平気でついていたりしてなんだか相場が上昇傾向にあるように思います。ヤフオクに出ていたジャンク扱いという個体を目を瞑って落札し,本体を見るのも恐ろしくて某マエストロにそのままオーバーホールをお願いしました。少しバルサム切れがあって,製品寿命ギリギリ勝負みたいな個体でしたが,マエストロの力で蘇って普通に気持ちよく使えるレンズになりました。



モノクロで撮るために,Leica M Monochrom (Typ 246)につけてみました。Alpaカメラ用のシャッターボタンが出っ張っているので見た目はイマイチです。まぁ,出てきた画が重要なので,見た目についてはとやかく言うところではないのですが。

このレンズによる作例をこちらにおいています。よろしかったらご覧ください。