「子供を殺してください」という親たち

押川 剛の「『子供を殺してください』という親たち」を読みました.

最近は,職場でもいろいろとトラブルが多いのですが,そのとき,トラブルの中心となっている人物をカウンセラーに紹介していろいろ話を聞いてもらいますが,家族との関係を聞くとびっくりするようなことが少なくありません。どうであればOKである,という基準があるわけではもちろんありませんし,それぞれの個別の事情で家族の形態は形作られるものだと思います。しかし,それにしてもそれはいくらなんでも普通はあり得ない,と思うようなことが常態である場合,どこかに歪みが生じることは十分に考えられます。

しかし,この本にあるような事態が少なからずおこっていて,それが著者が言うところの「大衆化」しているとすれば,職場でこれに類する経験をするのもそれほど特別ではないのかもしれない,とも思いました。著者は,親が子と真剣に向き合うことが少なく,その結果として子供が長じて問題行動に至るのではないか,ということを暗に述べているように思います。実際,親子関係だけでなく,職場での人間関係でもきれいごとばかりを優先して,面倒事からは目をそらしてなかったかのように振る舞う「偉い人」はたくさんいます。面倒事とは向き合わずにすませられるならそれはとてもラクですが,そのツケは必ずどこかについて,より高い代償を払う事になっているのではないでしょうか。

この本に書かれている内容は精神疾患に関する部分を取り扱っていますが,日本の社会全体のある種の縮図のようなものではないか,と思いました。
「子供を殺してください」という親たち (新潮文庫) -
「子供を殺してください」という親たち (新潮文庫) -

珍妃の井戸

浅田次郎の「珍妃の井戸」を読みました。

清朝末期の中国歴史シリーズの「蒼穹の昴」に続く第二弾。登場人物が珍妃の死にまつわる証言をするという「蒼穹の昴」とは全く異なる語り口で書かれています。最初,ちょっと戸惑いましたが,なるほどこういうものか,と思えば素直に入っていくことができます。

最後の結末は実は私はあまりよくわかりませんでした。もちろん書いてあるままなわけですが,私のなかで腑に落ちないというか,すっきりしないというか,消化不良というか。読み手の感受性の問題なのかもしれません。「珍妃の井戸」に続く「中原の虹」はどうなのだろう。
珍妃の井戸 (講談社文庫) -
珍妃の井戸 (講談社文庫) -

現役工学系教授からみた日本の大学の惨状

職場の同僚が現役工学系教授からみた日本の大学の惨状という匿名ブログを教えてくれました。

私はセンター試験の監督をやりながら,世界の研究から取り残される,というような焦りを感じるほど熱くはありませんでしたが,しかしこのブログを書いている人がおっしゃっていることは非常に現実をよく表していると思います。それに,ブログの後ろにつけられているコメントはなんというか,今の日本そのもののような気がします。

世の中一般ではなくて,研究者もどきの大学にいる人たちは,ここに書かれていることと同じ考えの人とそれと正反対に自分の首を絞めることに全身全霊をつぎ込んでいる人の二種類しかいないのではないか,と想像します。声が大きいのは間違いなく後者の人たちなので,ネイチャーに言われるまでもなく,現在の日本の没落ぶりは当然の帰結だと思います。しかも,声の大きい人たちは現状の自覚がないから,ブログを書いた人が書いているとおり,見掛け倒しでまったく中身がない張りぼての業績リストを出せ,ということになってますます雑務が増えるだけに違いありません。

衆議院議員の河野太郎氏はこのことの一部に気が付いていて何とかしようとしておられる様子ですが,お花見中の研究者の皆様へという記事だけを読む限りでは,残念ながら焼け石に水のような気がします。というか,むしろ,ますます面倒なことがふえるだけのような予感もします。

日本が世界のなかに埋没するだけならともかく,最貧国の仲間入りをするのも時間の問題だと思わざるをえません。まぁ,こんなことを続けていれば絶対に避けられないのでしょうがないんですけど。