この本では,読書がなぜ必要か,読書をする際の速読および精読のやりかたが述べられています。ハウツーものは速読で斜め読みで十分だろう,という著者の主張ももっともですが,そうするとこの本は精読するところがないのではないか,と思ったりもして,読み捨てご免の本であると著者自らが主張しているようにも思いました。
そんなわけで,著者の主張になんとなく矛盾を感じなくもない訳ですが,書いてあることは至極真っ当で,今更教えてもらわなくても,と思うところも少なくありません。どんだけ本を読まない人を対象にしているんだろう,と思うくらいの書き方で,対象としている読者層が想像しにくいところもあります。
うちの研究室の学生のように,まったく本を読まない,という人を読者として想定しているようにも思えるのですが,そういう人がこの本を読む可能性は限りなくゼロに近いという本質的な矛盾を感じるわけです。
たまたま,研究室の研究員のお姉さんがこの本を見つけて,学生に読ませるのにとてもよい,と思って買ってきて学生に貸して読ませたら,ある学生はいたく感心して読書をする気になったようです。きっかけがあれば効果があるということもわかったのですが,お姉さんが読んでごらんと言わなかったら,その学生とこの本には絶対に接点はなかったでしょう。
普通に本を読んでいる人に取っては通り一遍の中身ですし,著者の主張(本を読まないことは自国の文化の喪失であり亡国の行為である)は,まったくそのとおりだし,私自身もそのように考えてきたことですので違和感はありません。これほどまでに噛んで含めるように書かないとこの本に書かれているような基本的な情報が伝わらない,ということが新しい発見だったかも知れません。私の講義が学生に伝わらないのは,そこのところを正しく理解していないからかもしれないとちょっと反省しました。
この本の最後の章は著者が読むべきと考える50冊の本の紹介で,多くはタイトルくらいは知っているような本なのですが,実はちゃんと自分で読んだ本がまったくない,という恐ろしい事実に気づかされてちょっとショックでした。この50冊のリストはいろいろな意味で有用だと思います。自分の興味にあわせてよめばよいような話ですが,それでもあまり知らなかった本も紹介されていてちょっと読んでみようと云う気になりました。
いろいろな意味で,考えさせてくれました。

大人のための読書の全技術 (中経の文庫)